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権利書、登記識別情報通知を紛失したのですが?

執筆者 川西合同事務所 司法書士田原一暁

目次

そもそも権利書や登記識別情報通知とは何なのか

権利書(正式には登記済証といいます)や登記識別情報通知は、不動産に関する権利を取得した際に法務局から交付される書類です。

例えば、不動産を売買により取得した買主に対して、所有権移転登記が完了した際に、法務局から交付されます。

平成16年の不動産登記法改正の前に権利を取得した場合には登記済証、それ以降に権利を取得した場合には登記識別情報通知が法務局から交付されています。(法務局の支局や出張所によりオンライン化された時期が異なりますので、具体的な時期は法務局ごとに異なります)

登記済証や登記識別情報は、不動産の売却、担保権の設定など、不動産にかかる権利の処分行為に基づく登記申請をする際に、登記義務者が法務局に提出(登記済証の場合)または提供(登記識別情報の場合)する必要があります。

本人しか持っていないはずの書類(登記済証)や、本人しか知りえないはずの情報(登記識別情報)を法務局に提出または提供することにより、申請人が本人であることの確認をします。

登記済証や登記識別情報通知は、紛失しても再交付を受けることは出来ません。

尚、登記済証や登記識別情報通知を紛失したからといって、権利を失うことはありません。

権利書や登記識別情報の悪用は可能か

紛失した登記済証や登記識別情報を悪用して、勝手に所有権移転登記や担保権の設定登記をされてしまうのでは?と思われるかもしれません。

可能性としては無くはありませんが、登記済証や登記識別情報を提出または提供する登記申請のほとんどは、印鑑証明書も併せて法務局に提出しなければなりません。

つまり、実印や印鑑証明書を併せて取得されない限りは、悪用は難しいと言えます。

ただし、登記済証や登記識別情報を取得した第三者が不正な登記を行う可能性は完全には排除できません。

不正な登記がされる差し迫った危険がある場合には、不正な登記がされることを防止するための「不正登記防止申出制度」があります。

この申出をしてから3か月以内にこの申出にかかる登記の申請があったときは、法務局から申出者にその旨の通知がされます。

この申出をしたからといって、その登記申請が止まるわけではありませんが登記官が、その申請人について申請の権限があるのかどうかについての調査(本人確認調査)を行うこととされています。

その結果、不正な登記申請が却下される可能性が高まります。

この申出は、3か月ごとに行う必要があります。

 

また、登記識別情報については、失効させて使用できなくすることも可能です。

心配な場合には、失効させてしまうのも良いかもしれません。

※ 登記済証には失効させる制度はありません。

権利書や登記識別情報通知を紛失した場合の登記手続き

前述のとおり、権利書(登記済証)や登記識別情報は、不動産に関する所有権の移転の登記、担保の設定などの登記手続きの際に本人確認のために利用されています。

では、登記済証や登記識別情報通知を紛失してしまった場合にはどうすれば良いのでしょうか?

権利書(登記済証)の提出や登記識別情報の提供は、本人確認のために行われます。

これらの提出や提供が出来ない場合には、それらに代わる本人確認を行うこととなります。

具体的には、

1.事前通知

2.本人確認情報

の2通りの方法があります。

事前通知

1.事前通知制度を利用しての登記申請の概要

登記済証の添付、登記識別情報の提供をせずに、とりあえずはその他の必要書類を取り揃えて登記申請をします。

登記申請の内容を法務局で審査し、他に問題が無ければ法務局から申請人(登記義務者。本来登記済証の提出や登記識別情報の提供をすべき人)に通知がなされます。

通知の内容は、「登記の申請があった旨、およびその登記申請の内容が真実であるときは2週間以内にその旨の申出をすべき旨」となります。

この通知は、個人に対しては本人限定受取郵便、法人に対しては書留郵便で行われます。

この通知に対する回答には、申請書や委任状に押印した印鑑(個人の場合には実印、法人の場合には法務局届出印)を押印しなければなりません。

法務局が通知を発送してから2週間以内に回答がなされない場合には、その登記申請は却下されます。(2週間以内に法務局に必着です)

法務局が通知を発送してから2週間以内に適式な回答がなされた場合に初めて登記が実行されます。

 

2.事前通知を利用する場合の注意点

①登記義務者の印鑑証明書が必須となる

事前通知制度により登記申請をする場合には、必ず登記義務者の印鑑証明書を添付する必要があります。

所有権移転登記や抵当権設定登記などの申請時には、登記済証の添付、登記識別情報の提供ができる場合にも印鑑証明書を添付します。

登記済証の添付や登記識別情報の提供ができる場合には印鑑証明書の添付が必要ない登記申請(例えば抵当権抹消登記)にも印鑑証明書の添付が必要となります。

その場合には、委任状の押印も実印(法人の場合には法務局届出印)でなければなりません。

 

②登記の完了までに時間がかかる

事前通知制度の場合、法務局からの通知、その通知への回答という順序をたどりますので、必然的に登記完了までに時間がかかります。

急いで登記を完了させる必要がある場合には、事前通知制度は向いていません。

 

③登記と資金移動の同時履行が必要な登記には向かない

さらに、登記申請と資金の移動がリンクしているケースでは、事前通知制度の利用は実務上は行われていません。

例えば、売買による所有権移転登記の場合には、実務上、事前通知は利用されていません。

所有権移転登記が確実に可能な書類を司法書士が確認し受領するのと引き換えに、買主が売主に売買代金を支払うというのが取引慣行になっています。

つまり、不動産の所有権移転登記と売買代金の支払いが同時履行の関係となっています。

事前通知に対する回答が間違いなくされるか否かが不確実な状態では、買主は安心して売買代金を支払うことは出来ません。

他にも、抵当権設定登記と銀行融資の実行の場合にも同時履行が要請されますので、事前通知は向いていません。

このような場合には、後述する本人確認情報が利用されています。

本人確認情報

司法書士等の資格者が本人であることを確認した旨の書類(本人確認情報)を法務局に提供することにより、登記済証の提出、登記識別情報の提供がある場合と同様に登記手続きが進行します。

売買による所有権移転登記や抵当権設定登記など、資金の移動と登記が同時履行の関係にある場合には本人確認情報を作成して対応する場合がほとんどです。

 

1.本人確認情報の記載事項

①資格者代理人が申請人(申請人が法人である場合にあっては、代表者又はこれに代わるべき者)と面談した日時・場所およびその状況

②資格者代理人が申請人の氏名を知り、かつ、当該申請人と面識があるときは、当該申請人の氏名を知り、かつ、当該申請人と面識がある旨および面識が生じた経緯

③資格者代理人が申請人の氏名を知らず、又は当該申請人と面識がないときは、申請の権限を有する登記名義人であることを確認するために当該申請人から 提示を受けた書類の内容 および当該申請人が申請の権限を有する登記名義人であると認めた理由

 

2.本人確認情報作成にあたっては面談が必須

本人確認情報を作成するにあたっては、申請人の方との面談が必須となります。

遠隔地にお住いの方であっても司法書士と必ず直接面談する必要があります。

申請人が法人の場合には「代表者又はこれに代わるべき者」との面談が必須となります。

会社等の法人における「これに代わるべき者」には総務部長、支店長、融資課長などが該当しますが、「業務権限証明書」という書面を作成し、法人の法務局届出印を押印して業務権限を証明する取り扱いとなっています。

 

3.提示が必要な本人確認書面書類

資格者代理人が所有者本人であることを確認するための本人確認書類には、ルールがあります。

1号書面(顔写真付きの公的身分証明書)

①運転免許証

②マイナンバーカード

③パスポート

④在留カード

⑤特別永住者証明書

⑥運転経歴証明書

以上のうち、いずれか1点以上

 

2号書面(顔写真のない公的証明書)

①国民健康保険、健康保険、船員保険、後期高齢者医療もしくは介護保険の被保険者証

②健康保険日雇特例被保険者手帳

③国家公務員共済組合もしくは地方公務員共済組合の組合員証

④私立学校教職員共済制度の加入者証

⑤国民年金手帳

⑥児童扶養手当証書

⑦特別児童扶養手当証書

⑧母子健康手帳

⑨身体障害者手帳

⑩精神障害者保険福祉手帳

⑪療育手帳

⑫戦傷病者手帳

以上のうち、いずれか2点以上

 

3号書面(1号書面及び2号書面以外の公的証明書)
2号書面に掲げる書類のうちいずれか1点以上および官公庁から発行され、又は発給された書類その他これに準ずるものであって、当該申請人の氏名、住所及び生年月日の記載があるもののうちいずれか1点以上

 

尚、法人においては、次のような取り扱いとなります。

①代表者事項証明書や法人の登記事項証明書にて代表者を確認した上で、代表者の方個人の上記書類を確認する

②代表者事項証明書や法人の登記事項証明書にて業務権限証明書の作成者が法人の代表者であること、業務権限証明書に押印された印鑑が法務局届出印でなされていること、を確認した上で業務権限のある方個人の上記書類を確認する

まとめ

権利書(登記済証)や登記識別情報通知は再発行されませんので、大切に保管する必要があります。

ただし、権利書(登記済証)や登記識別情報通知を万が一紛失してしまった場合にも権利自体を失うわけではありません。

不正な登記が心配な場合には、不正登記防止申出の制度を利用する、登記識別情報を失効させるなどの対応をとることをお勧めします。

権利書(登記済証)や登記識別情報通知を紛失してしまった場合の登記手続きは、次のように選択します。

①登記申請の完了を急がない場合、資金移動と登記に同時履行の関係が無い場合には事前通知を選択

②登記の完了を急ぐ事情や資金移動と登記が同時履行の関係にある場合には本人確認情報の作成を選択

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