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確定日付とは

執筆者 川西合同事務所 司法書士田原一暁

「確定日付をお願いします」などとお客さんから頼まれることがあります。

火災保険や生命保険への質権設定承諾書に公証役場で確定日付をもらうというケースが多いのですが、そもそも確定日付って何?と思い、調べてみました。

目次

確定日付とは何か?

確定日付について調べてみると、次のような条文を発見しました。

 

民法施行法抄(「みんぽうせこうほうしょう」と読むようです) 

以下引用します。

第五条 証書ハ左ノ場合ニ限リ確定日付アルモノトス

 公正証書ナルトキハ其日付ヲ以テ確定日付トス
 登記所又ハ公証人役場ニ於テ私署証書ニ日付アル印章ヲ押捺シタルトキハ其印章ノ日付ヲ以テ確定日付トス
 私署証書ノ署名者中ニ死亡シタル者アルトキハ其死亡ノ日ヨリ確定日付アルモノトス
 確定日付アル証書中ニ私署証書ヲ引用シタルトキハ其証書ノ日付ヲ以テ引用シタル私署証書ノ確定日付トス
 官庁又ハ公署ニ於テ私署証書ニ或事項ヲ記入シ之ニ日付ヲ記載シタルトキハ其日付ヲ以テ其証書ノ確定日付トス
 郵便認証司(郵便法(昭和二十二年法律第百六十五号)第五十九条第一項ニ規定スル郵便認証司ヲ謂フ)ガ同法第五十八条第一号ニ規定スル内容証明ノ取扱ニ係ル認証ヲ為シタルトキハ同号ノ規定ニ従ヒテ記載シタル日付ヲ以テ確定日付トス
 指定公証人(公証人法(明治四十一年法律第五十三号)第七条ノ二第一項ニ規定スル指定公証人ヲ謂フ以下之ニ同ジ)ガ其設ケタル公証人役場ニ於テ請求ニ基キ法務省令ノ定ムル方法ニ依リ電磁的記録(電子的方式、磁気的方式其他人ノ知覚ヲ以テ認識スルコト能ハザル方式(以下電磁的方式ト称ス)ニ依リ作ラルル記録ニシテ電子計算機ニ依ル情報処理ノ用ニ供セラルルモノヲ謂フ以下之ニ同ジ)ニ記録セラレタル情報ニ日付ヲ内容トスル情報(以下日付情報ト称ス)ヲ電磁的方式ニ依リ付シタルトキハ当該電磁的記録ニ記録セラレタル情報ハ確定日付アル証書ト看做ス但公務員ガ職務上作成シタル電磁的記録以外ノモノニ付シタルトキニ限ル
 前項ノ場合ニ於テハ日付情報ノ日付ヲ以テ確定日付トス

引用ここまで。

 出典:e-Govポータル (https://www.e-gov.go.jp)

 

ずいぶん読みにくい条文ですが、読み解いていくと・・・

証書は次のような場合に限って「確定日付」があるものとする。

1.公正証書はその日付が確定日付である

2.登記所(法務局)や公証役場で私署証書に日付のある印章を押してもらえば、その日付が確定日付となる

3.私署証書に署名した人が死亡している場合には、署名した人が死亡した日から確定日付があるものとして取り扱う

4.確定日付のある証書に引用された私署証書は、確定日付のある証書の日付を確定日付とする

5.官公署において私署証書に「ある事項」を付記してその日付を記入した場合には、その日付を確定日付とする

6.郵便局で内容証明郵便を出すとその日付が確定日付となる

7.指定公証人が電磁的記録に日付を内容とする情報を電磁的に付した場合には、その日付情報を確定日付とする

 

私署証書(私人間で作成された証書)は、その作成日付をいかようにも書けますので、いつの時点で存在していたのか本当のところは分かりません。

なので、上述のような場合には、その日時点でその証書が存在していることが明確になるため、その日付を「確定日付」とするということのようです。

 

①その証書がその日付に存在していたことが明確である「その日付」のことを確定日付といい

②確定日付のある証書は「確定日付の時点で間違いなく存在していた」と取り扱う

という理解で良いのかなと思うのですがどうでしょう?

 

公証役場で確定日付の印を押してもらうことが確定日付の付与だと思いがちですが、他にも色々あることがわかりました。

上記の3.や4.は目からうろこでした。

質権設定承認書に確定日付を付与してもらう意味は?

前述のとおり、公証役場に火災保険や生命保険への質権設定承認書に確定日付をもらいに行くことがあります。

これにはどんな意味があるのでしょうか?

 

1.保険金請求権等への質権設定手続きの概略 

質権設定に至るまでの概略は次のようになります。

①A銀行がBさんに家の購入資金を融資をします。

②BさんはC保険会社で火災保険に加入します。

火災でBさんの家が焼失してしまった場合には、火災保険金がBさんに支払われるとの契約です。

③A銀行は、万一Bさんの家が火災で焼失してしまった場合に備え、BさんがC保険会社に対して有している保険金請求権に質権を設定します。

質権を設定すると、本来はC保険会社からBさんに支払われるはずの火災保険金は、C保険会社からA銀行に支払われることとなります。

④A銀行、Bさんが連署した「質権設定契約書兼質権設定承認請求書」(契約書のタイトルは保険会社により異なります)にC保険会社の承認印をもらいます。

その後、その証書に公証役場または法務局で確定日付の付与を受けます。

 

2.ポイント

①「保険金請求権」という債権に対する質権設定ですが、質権設定契約は、A銀行とBさんの間で締結します。

A銀行とBさんの間では保険金請求権に質権を設定する旨の契約をすることにより質権設定は効力を生じます。(質権設定契約の成立要件)

②A銀行とBさんの間では保険金請求権に質権を設定する旨の契約をすることにより質権設定は効力を生じますが、C保険会社会社が質権設定の事実を知らないと、火災事故が起こった際にC保険会社は保険契約者であるBさんに支払うことになります。

そこで、質権の設定をC保険会社に主張するためには、C保険会社に質権を設定した旨の通知をするか、C保険会社に質権の設定を承諾してもらうことが必要となります。(保険金支払請求権の債務者であるC保険会社への対抗要件)

③さらに、Bさんが他の銀行(D銀行としましょう)からも融資を受け、同じ保険契約に基づく火災保険金請求権に質権を設定していたら?というケースを考えてみます。

つまり、同一の保険金請求権に複数の質権が設定される場合も有りうるということですが・・・。

このような場合に、先に、C保険会社に「確定日付のある証書」により質権を設定した旨の通知をするか、C保険会社に「確定日付のある証書」により質権の設定を承諾してもらった方が優先します。(ほかの質権者であるD銀行への対抗要件)

 

つまり、「確定日付のある証書」による通知や承諾は、質権の第三者対抗要件を満たすために利用されているということになります。

A銀行は、公証役場で確定日付の付与を受けることで、BさんやC保険会社以外の誰に対しても質権設定を対抗できることになります。

 

 

3.保険金請求権等(債権)に質権を設定する場合に関連する民法の条文

以下、引用します。

(質権の内容)

第三百四十二条 質権者は、その債権の担保として債務者又は第三者から受け取った物を占有し、かつ、その物について他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。

(権利質の目的等)

第三百六十二条 質権は、財産権をその目的とすることができる。

 前項の質権については、この節に定めるもののほか、その性質に反しない限り、前三節(総則、動産質及び不動産質)の規定を準用する。
 

 (債権を目的とする質権の対抗要件)

第三百六十四条 債権を目的とする質権の設定(現に発生していない債権を目的とするものを含む。)は、第四百六十七条の規定に従い、第三債務者にその質権の設定を通知し、又は第三債務者がこれを承諾しなければ、これをもって第三債務者その他の第三者に対抗することができない。
(債権の譲渡の対抗要件)
第四百六十七条 債権の譲渡(現に発生していない債権の譲渡を含む。)は、譲渡人が債務者に通知をし、又は債務者が承諾をしなければ、債務者その他の第三者に対抗することができない。

 前項の通知又は承諾は、確定日付のある証書によってしなければ、債務者以外の第三者に対抗することができない。

引用ここまで。

 出典:e-Govポータル (https://www.e-gov.go.jp)

 

確定日付を利用するその他の場合

火災保険や生命保険への質権設定の第三者対抗力を得る以外に、確定日付を利用するシーンはあるのでしょうか?

 

1.債権譲渡の第三者対抗要件を備える場合

貸金や売掛金などの債権を譲渡する場合に確定日付を利用します。

質権設定の場合には「承認書」に公証役場や法務局で確定日付を付与してもらう場合が多いですが、債権譲渡の場合には、内容証明郵便で通知を行う場合が多いようです。

債権が二重に譲渡された場合には、確定日付の先後が重要な意味を持ちます。

参照条文は前掲の民法第467条です。

 

2.贈与契約書の作成時

贈与税は暦年課税されますので、贈与の日付は重要な意味を持つ場合があります。

①贈与契約書を公正証書で作成する

②贈与契約書を作成し、公証役場や法務局で確定日付を付与してもらう

 

そうすることによって、贈与契約書の日付を遡って作成したのではないことを証明することが出来ます。

公証役場、法務局で確定日付を付与してもらう際の注意点

公証役場や法務局での確定日付付与申請の方法や、その場合の注意点は、次のようなものがあります。

 

1.公証役場での申請方法

① 確定日付を付与してもらう文書を持参する

② その場で待っておく

③ 手数料1件700円を現金で支払う

④ 確定日付が付与された文書を受け取る

代理人や使者でもよく、委任状、印鑑証明書、身分証明書の提示も必要ありません。

 

2.法務局での申請方法

① 確定日付を付与してもらう文書を持参する

② 確定日付付与申請書を記載し、収入印紙700円分を貼付する

③ 確定日付が付与された文書を受け取る

代理人や使者でもよく、委任状、印鑑証明書、身分証明書の提示も必要ありません。

公証役場での付与申請との違いは、申請書を記載する必要があること、手数料の支払いが現金ではなく収入印紙となることです。

 

3.確定日付の付与についての注意点

① 私文書であること

② 文書作成者の署名または記名押印があること

③ 文書が未完成ではないこと(日付が空欄である等)

④ 後で補充することが出来るような空欄がある場合には、補充出来ないように斜線を引いたり、以下余白等の記載をする

⑤ 文書の内容が法律や公序良俗に反するものであったり、無効な事項であったりしないこと

 

※ 確定日付は、その文書がその日付に存在していたことを証明するものであり、文書の成立や内容の真実性を証明するものではないことに注意が必要です。

まとめ

確定日付は、次の目的で利用されます。

1.債権譲渡や質権設定の第三者対抗要件を備えるための法律上の要件になっている

2.私署証書(私人間で作成された証書)がその日時点で存在していたことを証明するために利用する

参考リンク

日本公証人連合会のホームページ

調べているときに、架空請求に関する注意喚起を発見しましたので、リンクを張っておきます。

法務省のホームページ:公証人の確定日付を利用した架空請求にご注意ください

 

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