執筆者 川西合同事務所 司法書士田原一暁
先日、ご高齢の男性がアポイントなしで事務所を訪ねて来られました。
お話をお伺いすると、尊厳死を希望されておられ、そして、それを書面化したいとのことでした。
そのようなご相談は初めてでしたので、一度調べてから再度お話をさせていただくこととして、一旦お引き取りいただきました。
⑴ 尊厳死とは何か
延命措置を断って自然に死を迎えること。
⑵ 延命措置とは何か
病気の回復が見込めない場合に、人工栄養や人工呼吸器を使用して延命することを目的としてされる措置。
病気の回復が見込める場合に、人工栄養や人工呼吸器を使用して病気の治癒を目指す措置は延命措置ではない。
⑶ 尊厳死と延命措置
①延命措置を開始しない(不開始)
②延命措置をやめる(中止)
の2つの場面が想定される。
⑷ 苦痛の緩和のための措置
延命措置を開始しない場合や延命措置を中止する場合にも、苦痛の緩和のための措置は行われる。
⑸ 安楽死との違い
病気の回復が見込めない場合に、薬物の投与などにより人為的に生命を短縮させる「安楽死」は、尊厳死とは別の概念である。
⑹ 厚生労働省のガイドライン
平成19年に厚生労働省はガイドラインをとりまとめました。このガイドラインの策定は、平成18年に発覚した富山県射水市における人工呼吸器取り外し事件がきっかけとなったといわれています。また、社会情勢の変化に合わせて平成30年に改訂しています。
厚生労働省の「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」の改訂についてはこちらをご参照ください。
⑴ ご本人の意思確認
ご本人が尊厳死を選択するか否かの意思を表明できる場合には、本人の意思を尊重すべきことは明白です。
ただ、尊厳死を選択するか否かをご本人が表明できない場合にはどうすべきなのでしょうか?
前述の厚生労働省のガイドラインには、尊厳死を選択するか否かのご本人の意思が確認できない場合の対応について、次のように記載されています。
以下引用
本人の意思確認ができない場合には、次のような手順により、医療・ケアチームの中で慎重な判断を行う必要がある。
① 家族等が本人の意思を推定できる場合には、その推定意思を尊重し、本人にとっての最善の方針をとることを基本とする。
② 家族等が本人の意思を推定できない場合には、本人にとって何が最善であるかについて、本人に代わる者として家族等と十分に話し合い、本人にとっての最善の方針をとることを基本とする。時間の経過、心身の状態の変化、医学的評価の変更等に応じて、このプロセスを繰り返し行う。
③ 家族等がいない場合及び家族等が判断を医療・ケアチームに委ねる場合には、本人にとっての最善の方針をとることを基本とする。
④ このプロセスにおいて話し合った内容は、その都度、文書にまとめておくものとする。
引用終わり
出典 厚生労働省「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」(平成30年3月改定)
⑵ 事前に尊厳死の意思表明をするための制度
尊厳死を選択するか否かの意思表明が出来ない事態に備え、事前に尊厳死の意思表明を書面でしておく制度があります。
①尊厳死宣言公正証書の利用
尊厳死宣言公正証書は、公証人に依頼をして作成してもらいます。
公証人が五感の作用で認識した結果を記述する公正証書を事実実験公正証書といいますが、尊厳死宣言公正証書は事実実験公正証書の一種です。
公証人の面前で尊厳死を宣言し、公証人がその内容を録取して作成します。
日本公証人会連合会のホームページ(こちら)を参考にしてみてください。
②公益財団法人日本尊厳死協会の利用
公益社団法人日本尊厳死協会のホームページには、尊厳死に関する様々な情報が掲載されています。
リビング・ウィル(終末期医療における事前指示書)などが利用できるようです。
詳しくは、同法人のホームページをご参照ください。
今回のご相談者は、事前に尊厳死についての意思表明をすること、その文書化をご希望されていますので、意思表明を書面でする方向で話を進めます。
現時点で、その際にポイントになると考えていることは、次のとおりです。(お話をしていく中で、変化するかもしれませんが)
⑴ 書面の記載内容
現在想定している記載内容は、
①書面がご本人の真意に基づき作成されていること
②書面がご本人の判断能力が正常である時に作成されたこと
③尊厳死を希望すること
④延命処置を開始しないこと
⑤延命措置が既に開始されている場合(救急搬送された場合など)に、延命措置を中止する基準
⑥苦痛の緩和措置の希望
⑦ご家族や医療関係者等に対する希望
⑧医療関係者が刑事訴追されないことの希望
※ ご相談者の希望することが他にあれば、盛り込んでいきます。また、ご相談者が不要な項目は削除します。
⑵ どのような方式で書面化するか
書面の方式ですが、次の選択肢をご提示し、ご相談者に選んでいただくことを考えています。
①私文書で作成する
尊厳死の意思表明は、私文書ですることも可能と考えます。
ただし、本当にご本人の意思に基づいて作成されたものかの証明力は公正証書には劣りますので、作成した文書が医療関係者等にどのように受け止められるのか?は分かりません。
また、文書を作成したことをご家族等に伝えておかなければ、せっかくの文書が日の目を見ない可能性がありますので、作成した文書はご家族に託す等の対応が必要と考えます。
②尊厳死宣言公正証書を作成する
ご本人の意思に基づいて作成されたことを対外的(医療関係者や介護関係者)に証明するには良い方法と思います。
公正証書を作成したことをご家族に伝えておかなければ、せっかくの公正証書が日の目を見ない可能性がありますので、公正証書を作成した場合にもやはりご家族に託す等の対応が必要と考えます。
③公益財団法人日本尊厳死協会を利用する
この場合には、ご相談者様が直接同法人とやり取りをしていただくことになります。
⑶ 尊厳死について考えた中で感じた事など
①事前に書面を作成することにより、ご相談者の希望は一定程度かなえられる可能性はある。
②事前に書面を作成しても万能ではないかもしれない。(ご家族の意向、医療関係者等の判断)
③実際に死に直面した時には、今現在と考え方が変わる可能性がある。
④一旦書面を作成しても、時の経過とともに考え方が変わる可能性がある。
⑤どの様な方式で書面を作成する場合にも、ご家族に思いを伝える、ご家族に書面を託すことは必要である。
ご相談者に投げかけてみようと思っています。
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